4月10日の日台漁業協定について雑感

※この記事は4月19日現在のものです。今後情勢が変化する可能性があります。

 去る今月10日に、日本と台湾との間で尖閣水域を巡る漁業協定が締結されました。協定の細則はまだ未定なのかもしれませんが、報道を見る限りは日本は台湾側に相当の譲歩をしています。久々の更新で番外めいた話になってしまうのですが、この件はどうしても気になるので雑感を記します。
 まず、協定では尖閣水域での台湾漁船操業を、尖閣の日本側領海の外でなら認めるというものです。尖閣の西側とかそういった地域限定もなく、むしろ従来台湾側が権利を主張していた水域以上の広さで認めています。特に今回含まれている八重島北方の水域は従来の台湾側の主張にも含まれていない上、好漁場との事で、この件は特に沖縄の強い反発を買っています。
 次に、そういった尖閣周辺水域での操業について、日台は双方の法律の「適用除外」としている点です。これを見る限りは、日本は台湾側に無制限の操業を認めている様に取れます。今後の交渉でちゃんと制限をかけられるのでしょうか。ちなみに北方領土水域における日本漁船の操業については、日本は毎年ロシアに入漁料を支払い、しかも日本漁船の漁獲量は厳しく制限されています。日本漁船が少しでもこれから逸脱する行動を取れば、ロシア側は容赦なく拿捕してきます。
 ここからは私の推測になるのですが、今回の件が日台間の問題に留まらず、事実上中国大陸側漁船の尖閣周辺での操業にも道を開く可能性があるように思えます。例えば尖閣で操業した台湾船が大陸で水揚げする、また船籍と船主こそ台湾人でも、船員は大陸人で、事実上大陸を母港にする、といったケースにはどう対応するのでしょうか。周知の通り、中台間の経済統合は急速に進んでいます。
 そして本丸というべき尖閣周辺の海底資源をいざ開発する際にも、今回の漁業協定は影響してくるでしょう。台湾が漁業協定を楯にして海底資源の権利も主張してくる事は想像に難くありません。

 今回の協定で「中台間にくさびを打ち込んだ」などという論調がメディアにみられますが、いくらなんでも能天気に感じます。また、この件について有力政治家のコメントを全然見ないのも気になります。特に石原慎太郎氏あたりは何かしらのコメントを発する責任があると思うのですが。どこかで出しているのでしょうか。

(台湾史をちょっとだけかじった者としてフォローしなければならないのは、台湾側漁民にとっても、尖閣水域は戦前までは伝統的な漁場であったことは事実です。戦後処理で海に国境がひかれた事により、彼らは確かに被害者となっています。台湾側の主張を考える際にはそこは押さえる必要があります。)